あゝ角帽に花うけて

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ナポレオン時代の戦列歩兵といえばシャコーを被った男達と相場が決まっているが、それ以前の大北方戦争七年戦争、また独立戦争等では三角帽子が広く用いられていた。

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バリー・リンドン』や『パトリオット』で描かれる戦列歩兵達が一様に被る三角帽子は18世紀を象徴するアイテムだ。軍属だけでなく一般にも普及していたこの帽子は大きなつばを3点で留めたもので、雨が溝から肩へ流れ落ちるようにつくられていた。つばの折りかたや被る角度、被り手の階級なんかで結構バリエーションがあるのも面白い。

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典型的な海賊の集会の様子だが、三角帽子の微妙な差異に注目すると面白い。

右側手前のジャック・スパロウが被る三角帽子はまさに典型的海賊帽子といった感じ。使い込んでよれた感じが味を引き立てる。中央のエリザベスが被るオリエンタルな角が生えたものはたぶん映画オリジナルだろう。そして後方、バルボッサの被るつばの大きな帽子。これが三角帽子でないことは一目で明らかだが、このつばの長さから原型となった(つばを折る前の)帽子ではないかと勝手に推測している。

変わって左側奥の怪物ディヴィー・ジョーンズはつばが大きく前方に剃りあがった三角帽子で、その威容はまさに海賊船長にふさわしいという感じだ。左側中央のカトラー・ベケット卿が被る三角帽子は中央が高く、皺の無いピンと張った様子から上等な帽子であることが伺える。

先日識者から「三角帽子は屈んだ場合前方の溝から雨水が垂れて不便なのではないか」という指摘を伺ったことがあった。このように前方を高くせり上げると溝が小さくなり、自然、水は横に流れ出るので、「三角帽子屈むと雨水邪魔だよ問題」に対する解決策になりそうな気がするがどうか。

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手前の剣を持った士官と後方兵士の帽子の違いを見ると形状の違いが分かりやすい。兵士が被る帽子は前方部分が水差しのように尖っており、確かに屈んだら溜まった雨水が出てきそうだ。でもまあ、カッコいいし。とかくに三角帽子の多様性は人を惹きつけてやまない。

悲しいことに三角帽子は使い勝手の悪さから徐々に二角帽子へと置き換えられていく。特に前方のでっぱりは銃の狙いを付けたりする時に邪魔になったらしく、その辺スッキリした二角のほうが軍隊で使われ始めたのも当然の流れか。フランス軍では革命戦争を通して二角帽子が用いられたが、顎当てのあるシャコー帽子のほうが歩き回る兵卒には適していることもあり、ナポレオンが帝位に就いた後に更新された。他方で将官の帽子としてはイギリス風の縦被り作法を含め改めて制定された。(とはいえ、幕僚や親衛隊、鼓笛隊なんかは普通に横被りしているようなので詳細は不明)また士官や文官の正装として20世紀まで世界中で用いられており、割と長生きな気もする。

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